宮崎進(1922年-)は、87歳になる現在までに様々な作品制作の軌跡をたどってきました。1967年の安井賞受賞を経て、1972年から約2年間のパリ滞在からの帰国後、1980年代末より渾身の仕事となっている「シベリアシリーズ」に取り組み、2002年にはその集大成といえる「よろこびの歌を唄いたい 宮崎進展」(横浜美術館)を開催し、2004年には第26回サンパウロビエンナーレの日本代表出品をするなど、精力的な活動は常に注目を集めてきました。その輝かしい画業への転機となった安井賞受賞につながる「旅芸人シリーズ」は、宮崎進の制作の原点ともいえる、人間の存在と本質を見つめる上で、社会の根底に力強く生きる人々のたくましさと悲哀を生々しくも力強く描いた作品群となっています。
宮崎進は、13歳のころに郷里の山口県で芸人一座の舞台美術の作成などに関与し行動を共にした原体験から、画家になる想いをふくらませ、1939年に日本美術学校に進学します。しかし、戦時状況での繰り上げ卒業と軍隊への召集と満洲への出征、敗戦後のシベリア抑留という過酷な運命に翻弄され、1949年に引き揚げて、山口から上京後も混沌とした社会になじめず、放浪の旅へ身を置き、何かに憑かれるように冬の北陸、東北、北海道の各地を歩きまわりました。それは従軍時から虜囚の厳しい体験によって失われた時間を取り戻し、自分が託すべき主題を求めるために、何かを描かずにはおれないという衝動と渇望に突き動かされた漂泊だったのです。その漂泊のなか、かつて行動を共にした旅芸人の一座や見世物小屋に、人間としての原初的なエネルギーと本質をまざまざと見せつけられ、託すべきテーマへの足がかりを得ました。そうして展開された「旅芸人シリーズ」は、その後の宮崎作品にみられる人間の本性に対する一貫した眼差しと、生きることへの歓びを見る者といかに分かち合えるかという取り組みの原動力となりました。芝居小屋の舞台や、楽屋の非日常的な情景に垣間見える、日々の生活にあがいている旅芸人や大道芸人たちの偽らざる実像とその生命感の表現に、画家宮崎進の果敢なる挑戦を感じとることができます。
本展では、そうした「旅芸人シリーズ」とそこに至る漂泊の中で描かれた油彩画33点に加え、ドローイングや写真資料などを通して、長年にわたり第一線のアーティストとして活躍する画家宮崎進の創作の原点と実相にせまります。
[関連イベント]
■講演会
「宮崎進の芸術」
講師 赤松祐樹(川村記念美術館学芸員)
日程 7月4日(土)
時間 14:00-
会場 多目的室
参加自由