グラフィックデザイン学科教授で、写真家の十文字美信の作品シリーズ「日本劇顔」と「FACES」の作品展示で構成する多摩美術大学グラフィックデザイン学科研究室企画展の第2弾です。
このたび多摩美術大学美術館では、『十文字美信「劇顔」と「FACES」』を開催します。
「劇顔」と「FACES」。いずれも写真家であり、多摩美術大学教授である十文字美信が顔をテーマに撮影した作品の展示である。
「劇顔」は1999年より撮り続けているシリーズで、すでに延べ140名ほどの役者を撮りおろしている。扮装をして舞台へ上がる寸前、あるいは舞台が終わった直後の数分間がシャッターチャンスである。どちらの瞬間にしても、役者はある宙ぶらりんな精神状態で撮影を強いられることになる。すなわち、舞台上の役と素の自分との「はざま」を撮られるわけである。こうして、撮られる役者と撮る写真家の一瞬の出会いでできた作品、80点あまりが展示される。
「FACES」は2009年から撮り始めた、十文字美信最新の作品シリーズである。十文字の考案した特殊な方法で、数十分かけてひとつの顔を撮るこのシリーズは、一回ではなく、数回はシャッターを押すことによって、ひとつの顔に時間をとりこむ。ブレ、ズレ、重なり、あるいは一部が消えることによって、見る側の想像力を刺激し、表情の奥にあるその人の個性や人間性を表現しようと試みた意欲作である。
十文字美信(じゅうもんじ・びしん)
写真家・多摩美術大学教授
1947年横浜生まれ。1971年に写真家として独立。デビュー作「untitled」(首なし)がニューヨーク近代美術館で開催された「New Japanese Photography」展(1974)に招待される。独立の翌年、資生堂と松下電器から同時に撮影依頼があり、広告写真及びコマーシャル・フィルムの撮影や演出にも関わるようになる。
70年代は、身近な人間や自らの夢をモチーフにして内面世界を映像化した作品が多い。眼鏡を外して裸眼で撮影した「近眼旅行」、自殺者が最後に見る風景をテーマにした「グッドバイ」などもこの時代の作品である。80年代になると、対象が「自身の内面」から「日本人」へと移行。ハワイの日系一世たちを撮影した代表作「蘭の舟」を制作する。同名の写真集『蘭の舟』(1981)で伊奈信男賞を受賞。インドシナ半島北部山岳地帯に住み、犬祖神話をもつヤオ族を、写真と文章でドキュメントした『澄み透った闇』(1987)は、写真というジャンルにはおさまりきらない十文字独自の世界である。
80年代の後半から90年代にかけては、日本の文化や日本人の美意識に興味を移行させる。尾形光琳の「扇面貼交手箱」の撮影をきっかけに日本の黄金美術に興味を持ち、作品集『黄金 風天人』(1990)を上梓して、土門拳賞を受賞。日本の伝統建築や庭園の撮影も精力的に行い、『日本名建築写真選集19 桂離宮』(1993)を制作。『ポケットに仏像No.1』(1993)をはじめとする3D写真による写真集も制作した。1999年雑誌「シアターガイド」紙上で劇顔の連載を始める。2000年に入ると、黄金文化の対極にある日本人の美意識「わび」に着目。日本の自然、茶道、そしてそれらが連綿とつながって現代の「わび」に行き着いていることを視覚的に表現した作品集『わび』(2002)を上梓する。わびを敷衍した「おもかげ」「ふたたび翳」「風のごとく」などの作品も発表。『日本劇顔』(2005)を上梓。近著は、70年代の未発表作品から最近の作品までをまとめた作品集『感性のバケモノになりたい』(2007)である。この作品集を含めたこれまでの写真活動で日本写真協会作家賞を受賞する。
2009年にはキヤノンデジタルカメラの動画機能を駆使した作品「さくら」と「おわら風の盆」を発表。デジタル一眼レフカメラ動画機能映像の先駆者となる。2009年9月、写真と時間についての新しい試みである、新作「FACES」を発表。
[関連イベント]
■トークイベント
「劇顔」10年の軌跡と「FACES」
講師 伊藤芳樹(シアターガイド主宰)
太田和彦(アートディレクター)
十文字美信(写真家)
大高由子(シアターガイドエディター)
司会 尾上そら(演劇ジャーナリスト)
ゲスト 中島祥文(多摩美術大学教授 アートディレクター)
日程 9月25日(土)
時間 15:00-