古代より生死、自然への畏敬、また再生への憧れと未知なる宿命に捧げる「祈り」は、様々な造形を生み出す力となりました。本展では、人類の源となったアフリカから地中海、エジプト、そしてアジアなど広範な地域を取り上げ、「祈り」が形となった生命デザインの世界をご覧いただけます。多摩美術大学芸術人類学研究所とのタイアップ展。
―ファウナとフローラと人間の関係史をよみとく―
人間は「大自然の命」を食べて、きょうも「生かされて」いる。そもそも人間という存在は、宇宙自然の生命体系の中では、まだまだ子どもで、魚の5億年、植物の10億年に比べたら、とても小さき存在なのだ。世界の諸民族のすばらしいデザインのひとつひとつには、先史時代から現代まで人間が出会ってきた「動物(ファウナ)」と「植物(フローラ)」の造形に満ちている。人々は現代人が忘れてしまった、この命の大先輩たちを、檻(おり)に入れて飼いならすのではなく、共に生きて命を恵んでくれてきた「神々」や「精霊」として敬い、折々の祭りや暦のうえで、心から感謝を表してきた。そして人間が大災害や疫病など深い危機におちいったとき、人々はそれらの「生きものたちの力」をもらい、祈り、難関を突破した。それはたとえばユーラシア世界にも日本列島にも伝わる「生命の樹」の思想であり、「鹿」や「熊」や「魚」を精霊として畏敬する信仰である。人間の「いとなみ」とは、かつてそうであり、いま私たちが向き合わねばならない「今を生き抜く」ための「祈りの生命デザイン」を創造することと言ってよい。この展覧会では多摩美術大学美術館に収集されてきた世界の動植物の造形、そして人間の祈りの場やフィギュアが集合し、現在の世界に問われている人間と自然の交流のありかたの原点をみせてくれる最高の機会である。「古くから知られていたものなのに、おおいに見逃されていたものを、新しいものとして発見することが、真に独創的なことなのだ。」このニーチェの言葉を大いなるしるしとして、この展覧会は、まことの生命の春を迎える歓びをもって、ここに幕をあける。
鶴岡真弓(多摩美術大学・教授 / 芸術人類学研究所・所長)
[関連イベント]
■「祈りの生命デザイン ―生き物たちのカタチ―」
講師 鶴岡真弓(多摩美術大学教授・芸術人類学研究所所長)
日程 2月1日(日)
時間 14:00-15:00
参加無料
■学芸員によるギャラリートーク
〈古美術編〉
日程 2月8日(日)
時間 14:00-15:00
〈エスニックアート編〉
日程 2月15日(日)
時間 14:00-15:00
参加無料