1980年代の電子テクノロジーがもたらしたDTP環境は、印刷・出版のかたちを大きく変えました。優れたインターフェイスを搭載したパソコンと、モニタ上で誌面をシミュレーションできるレイアウトソフト、そして豊かな諧調を再現する300dpiのレーザープリンタの登場によって、グラフィックデザイナーはより自由な表現を獲得します。写植が活字を駆逐した時と同じようにタイポグラフィの品質が低下するのか。それとも、誰もがオリジナルのタイプフェイスを使って手紙を書くことができるデジタル・パラダイスが到来するのか。批評家リック・ポイナーは技術転換の狭間にあったこの時期の表現を、グラフィックデザインの新しい潮流ととらえています。
建築やインダストリアルデザインの領域では、厳格な国際様式の原則が時代とのギャップを露呈し、多様で柔軟なポストモダンのデザイン哲学が浸透しつつありました。グラフィックデザインにおいてもまた、スイス・タイポグラフィの新星W・ヴァインガルトがフィルム製版のコラージュを駆使してグリッドシステムを崩壊させ、バーゼルで学んだA・グレイマンやW・クンツは新天地アメリカで「ニュー・ウェイヴ」と呼ばれるような電子時代特有のグラフィック表現に到達しました。
この展示では、その後の「ニュー・ウェイヴ」がアメリカでどのように展開したのかを、ボストンのスコロス&ウェデル、シカゴのリック・ヴァリセンティ、サンフランシスコのジャン=ベノワ・レヴィのポスター作品から探ります。
[同時開催]
-あざなえる色と形- 今井信吾